お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践

お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)
勝間 和代
433403425X
最近、「効率が10倍アップする新・知的生産術―自分をグーグル化する方法」「無理なく続けられる年収10倍アップ時間投資法」と2冊続けて勝間さんの本を読みましたが、さらに金融リテラシーに関する勝間さんの本も読んでみました。
一言で感想を言うと、想像していた内容とは少し違ったな、ということでしょうか。

ここでまず最初にわかってもらいたいのは、「自分のお金を銀行などの口座に預金として預けてさえおけば安全」であるどころか、それは人生設計上、リスクになるということです。
これはどういうことかといいいますと、多くの人が「お金に働いてもらう」ということを知らないがゆえに、本来なら得られるべき収入を実は放棄していることを意味するからです。 P.6

これはぼくも同感です。
有価証券(株式や債券など)や不動産のみならず、銀行預金だけに限っても、普通預金のみか、もう少し金利の高い預金に預けているか、でリターンはかなり変わってきます。さらに、銀行預金以外に資産を配分しているかどうかで、長期的(就職後定年までの30年~40年といったスパン)にはまるで違ったものになってくると思います。
そのように考えていたからこそ、こちらに来た時、少し時間をかけてまでING Directで口座を開設したのです。決済用に使っているBarclaysの口座だけだと、まともな金利はつかなかったので、そんなもったいないことはできなかったのです。

さて、個別の話に入る前に、金融リテラシーについて誤解しないでもらいたいことがあります。それは、金融リテラシーを身につけることと「ラクしてお金を儲ける」ことは違うということです。逆に、金融リテラシーが身につけばつくほど、世の中に「ラクなお金儲けの方法」などはない、ということがよく分かるようになると思います。 P.47

誰もができる「ラクしてお金を儲ける」方法はないと思いますが、一定のファイナンシャルリテラシーは誰もが身に付けておくべきだと思います。

これまでリスク資産に投資をしてこなかった人の二大理由は、「仕事で忙しく、そんなことを勉強している時間はない」「自分の少ない資金では運用してもどうせほとんど利益が出ないから、定期預金にしても、他の資産にしたとしてもそれほど変わらない」というものだったと思います。
しかし、それは違うのです。「金融の勉強をしないから、いつまでも労働でしか対価を得られないために忙しい」のであって、かつ、「運用をしないから、いつまでも資金が少ないまま」なのです。鶏と卵の関係です。 P.164

おっしゃる通りだと思います。そして、金融の勉強を始めるのは早ければ早いほどよいと思います。特に社会人になって、自分で本格的に稼ぐようになった時には、ある程度の時間をかけてきちんと勉強しておくべきでしょう。
以下のブログのエントリもご覧になるとおもしろいかもしれません。
404 Blog Not Found – 暇を作れぬ奴に金は作れない

それでも住宅を買いたいという場合は、買っていい住宅と買ってはいけない住宅を吟味する必要があります。そして、一般的に買ってはいけない住宅の最たるものが、新築マンションです。特に、大規模な宣伝を行っているような大型分譲の新築マンションは注意をしてください。
新築マンションをなぜ買ってはいけないのかというと、新築には必ずその建築業者の利ザヤが多く乗っているためです。購入価格の20~30%ぐらいは、その新築マンションの広告費や粗利益であると考えていいでしょう。 P.99

これも同感です。新築マンションを購入される方は、よーく調べて、じーっくり考えてから購入された方がよいと思います。新築マンションって、みなさんどれくらい検討されてから購入されるのでしょうか。たいていの人にとっては、人生で最も大きな買い物です。モデルルームを何件か回って、じゃあコレにしよう、だけで購入してしまうのは非常にもったいない気がします。
例えば4000万円の新築マンションを買う場合、上の数字を使い、25%が広告費や粗利益だったとすると、実際の価値は3000万円ということになります。つまり、「新築」ということに対して1000万円のプレミアムを払っていることになります。1000万です!1000万。1000万円余計に払ってまで新築に住みたいかどうかをじっくり考える必要があると思います。
ちなみに、イギリスでは古い物件の方が若干高いようで、新築にプレミアムを払うという考え方はあまりないようです(別にイギリスの考え方がいいと言っているわけではなく、そういう風に考えている国の人もいるというご紹介です)。
以下、本の話から少しそれますが、ここではもう少し具体的に計算しながら考えてみます。新築にこだわって4000万円の住宅ローンを組んだ場合と、中古で3000万円の住宅ローンを組んだ場合にどのくらい金利の負担が変わってくるか計算してみると次のようになります。
30年返済、金利2%で計算

  • 4000万円のローンだと、4000万円の元本返済に加えて総額1322万円を金利として支払うことになります。そして、毎月の返済額は147848円
  • 3000万円のローンだと、3000万円の元本返済に加えて総額828万円を金利として支払うことになります。そして、毎月の返済額は110886円

つまり、金利負担だけで総額500万ほど多くなってしまいます(より正確には、住宅ローン税額控除を考慮すると、その差はここまで大きくはならないでしょう)。毎月の住宅ローンの返済額も37000円ほどの違いがあり、家計にとって毎月37000円の違いはかなり大きいのではないでしょうか。例えば、この37000円のうち、3万円を運用にまわし、7000円を生活費にまわすとより快適な暮らしができるかもしれません(新築と中古では他にも諸費用などで多少変わってくる点があるかと思いますが、そもそもの価格の違い、およびそれに付随するローンの金利負担がもっとも大きな違いだと思います。その他の違いがこの価格差および金利負担の差を上回ることはないでしょう)。
ちなみに、金利を3%に変更すると以下のようになります(現在の日本は超低金利ですが、今後30年間その状態が続くと考えるのはリーズナブルな仮定ではないでしょう)。
30年返済、金利3%で計算

  • 4000万円のローンだと、4000万円の元本返済に加えて総額2071万円を金利として支払うことになります。そして、毎月の返済額は168642円
  • 3000万円のローンだと、3000万円の元本返済に加えて総額1553万円を金利として支払うことになります。そして、毎月の返済額は126481円

月々の負担額は42000円へと拡大します。全期間固定金利で借りるならともかく、変動もしくは短期的な固定金利(例えば最初の2年、5年、10年など)で借りる場合は、将来的には、このような負担額の増加の可能性を常に考えておく必要があると思います。日本の現在の状況を考えると、負担が大きくなることはあっても、小さくなる可能性は非常に低いでしょう。
ぼくは新築マンションを購入することを全否定しているわけではありません。最終的には、その人の価値観によって選べばよいと思います。①新築マンションに住むという選択肢を放棄して経済的な負担が小さい生活もしくは新築物件よりも広いところに住むという生活を送るか、もしくは②新築にこだわって経済的な負担が大きいか、または少し狭めの家に住むか、これは完全にその人の価値観次第でしょう。どちらが正しいとか、こうすべき、というものではないでしょう。ただ、どちらの選択肢を取るにせよ、事前にこういったことを勉強して知っておくべきだと思います。このような様々な負担の違いを知った上で判断するのと、知らずに判断してしまうのとでは、知らないうちにお金に苦労してしまいかねないのではないでしょうか。
少し本の話にもどりますが、勝間さんは月々の投資原資の効果的な生み出し方として

  1. 「住宅ローンを組まないこと」
  2. 「(特に都市部の人は)車を買わないこと」
  3. 「生命保険を定期逓減型にすること」

と書かれています。確かに投資原資を生み出すためにはよいかもしれませんが、人生のファイナンシャルプランという意味では、ぼくは必ずしもいいとも思いません。というのは、一般的には住宅ローンを組むということは、自動的に定期逓減型の生命保険に加入することになるからです。団体信用生命保険、いわゆる団信というものです。
例えば、3000万円の住宅ローンを組んだ場合、たいていの場合は団信に加入することになります。これは月々の金利に上乗せした形で保険料を払うことになるのですが、そのかわり住宅ローンを残した状態で万が一のことがあった場合、ローンの残額はチャラになる、というものです。つまり、残された家族はその後ローンを支払わなくてすむわけです。その場合、その住宅がもう必要ないと思うのであれば、売却すれば売却代金が保険金のように得られますし、誰かに賃貸して自分たちは家賃負担の低い物件に引っ越せば、家賃支払後さらに追加で収入を得られる状態になることも不可能ではありません。
ローン残高は少しずつ減少していきますので、これは実質的に定期逓減型の生命保険に加入していることと同じことになります。つまり、住宅ローンを組み、団信に加入していれば、他の生命保険(ここでは死亡保険)に加入する必要はないと思われます。このように、住宅ローンと生命保険は単純に切り離しては考えられず、ファイナンシャルプランという意味では、一体で考えておく必要があると思います。
ぼくはリーズナブルな中古物件(考え方としては「マイホームは「貸せる物件」を買いなさい!」が参考になるかもしれません)を見つけることができるのであれば(この前提が超重要ではあるのですが)、それを購入し、団信に加入しておくというのも悪い選択肢ではないと思っています(もっと言えば、団信は不動産投資ローンでも加入できます。自宅を購入してしまうと引っ越しづらくなってしまうので、不動産投資をしてそこそこのリターンをあげつつ、団信で保険もカバーされるというのがよいとぼくは思います。だからこそ実践しているわけですが。)
団信については、例えば次のリンクをご覧ください。
住宅ローンの「保険」 もしもの時の団体信用生命保険
つまり、「新築マンション+住宅ローン(団信)」という組み合わせをぼくは好みませんが、「適切な価格の(もしくは割安な)中古マンション+住宅ローン(団信)」という組み合わせはそんなに悪くない気がします。
こういった知識は知っておいて損はないと思います。知らなかったがために、住宅ローンを組み、さらに高額の生命保険に加入し、月々の支払負担が高くなり家計を圧迫しているなんて状況になりかねません。そういった意味でも、ファイナンシャルリテラシーを身に付けておくことは重要だと思います。
また脱線してしまいましたので、また本の話に戻りますが、ところどころ「?」と感じるところもありました。けっこうアカデミックな話も出して議論を進められているのですが、一般の人にとってはかなりちんぷんかんに思われる箇所も多い気がします(ぼくは仕事でこのあたりのことをやっていたので慣れ親しんだ用語ですが、一般の方はどのくらい理解できるのでしょうか。ファイナンシャルリテラシーの話に、専門用語はあまり必要ない気がします)。
さらに、日経平均先物オプションと宝くじのたとえ話(P.145)は、かなり意味不明でしたし、決定論的カオス理論(非線形性から来る初期値鋭敏性の話)と、確率論的な話であるランダムウォークの話をごっちゃにされている印象を受けました(このあたりはぼくの認識不足である可能性もあるので、ご存知の方は教えて頂けると助かります)。
そういう意味で、最初に書いた通り、もう少し分かりやすい本かと思っていたのですが、ちょっと分かりづらい本になってしまっている気がします。ただ、こういった金融リテラシーに関することを実践的な観点から書かれている本は少ないので貴重な一冊ではあると思います(例えば、金持ち父さん貧乏父さんなどもありますが、実践的でわかりやすいかと言われると必ずしもそうでない気がします)。
日本人のファイナンシャルリテラシーが向上すると同時に、ワークライフバランスの取れた生活を送る人が増加し、豊かな生活を送れる人が多くなるといいですね(ここでいう「豊かな」というのは、メンタル的な意味が強く、金銭の多寡で計測できるものではないと考えています)。

3 件のコメント

  1. ぽん 返信

    年末に里帰りしたときにこの本を買ってきました。金融に関して全くのイリテレットなので少し勉強しようと・・・。適当な本がわからず、ベストセラーになっていたのでいいんだろうと思って買いました。飛行機の中で途中まで読んで放置状態です。世の中に「ラクなお金儲けの方法」などはない、という部分はよく覚えています。

  2. yokoken 返信

    「適当な本」というのがなかなかない気がします。
    この本、思ったよりはやさしくは書かれていない気がします。
    個人的には、次のマネックスで連載されているブログなんかオススメだと思います。かなりボリュームありますが。
    「10年後に笑う!マネープラン入門」
    http://www2.monex.co.jp/monex_blog/archives/cat_18.html

ぽん にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です