エレクティブの一つ、リアルオプションが終わりました。昨日、試験があり、今日はグループレポートの締め切り&グループプレゼンということで、かなりあわただしかったですが、なんとか終了しました。結局、プレゼンはリハーサルもない、ぶっつけ本番。参加者10人ちょっとの小規模なセミナーのような雰囲気だったので、特に緊張することもなく、終えることができました。
先日も書いたように、ぼくらのグループはUNITEというスチューデントアコモデーションを開発、運営している会社を対象に、リアルオプションの分析をしました。
一昨日の時点で教授が、「明日、試験の後に、実際の物件を見に行こうか」と言い出し、急遽、試験の後に実際の学生寮を見学に行くことになりました。ビジネススクールから歩いて、5分もかからない場所にUNITEが運営している実際の物件があったので、昼休みの時間だけで見学することができました。やはり、百聞は一見にしかず、で実際の物件を見ると、かなり雰囲気がわかります。また、UNITEの人が、けっこう親切に説明してくれて、一般的な契約の話のみならず、ビジネス的な観点からも説明してくれたのでかなり参考になりました。
(以下の話は少し専門的な話なので興味ない方は読み飛ばしてください)
そして、このリアルオプションの授業を通じて、何を学んだか、何をあらためて考えさせられたか、というと、アメリカンパーペチュアルオプションの閉じた解があることも今回初めて知りました(というか、今まで満期のないオプションというものを扱うことがありませんでした)が、何と言っても企業評価における割引率についてです。一般的な企業の評価において、DCF(ディスカウントキャッシュフロー)モデルを使うというのは、ある意味、ファイナンスの世界では常識ですが、資産として不動産を大量にかかえる企業の場合は必ずしもそうではありません。例えば、REITなどの評価では、NAV (Net Asset Value) をベースに評価されることが多いと思われます。
UNITEについてのアナリストレポート(1社しかカバーしていないのですが)を読んでみると、NAVでのバリュエーションをしていました。そして、UNITEもアニュアルレポートなどでNAVを重要な経営指標として取り上げています。
このNAVですが、簡単に言うと不動産の時価のようなもので、不動産の時価は一般的に原価法、取引事例比較法、収益還元法(DCF)を併用するものと思われます。このうち、収益還元法につかわれるキャップレートが割引率に該当するのですが、このキャップレートは「年間賃料/不動産価格」として計算されます(不動産のプロではないのでひょっとしたら厳密には違うのかもしれません)。
ここで何を言いたいかというと、不動産の時価はその不動産が生み出す収益をベースに評価されるのであって、誰が所有者であるかということとは無関係であるわけです。つまり、収益還元法で1億円と評価された不動産があったとして、それを所有していたAさんがBさんに1億円で売却したからといって、その不動産の評価が影響を受けるとは考えにくいと思います(ここではリアルオプション的なフレキシビリティの話は考えないことにします)。
そして、今回のような不動産を大量に保有している企業を評価するときは、保有不動産の時価は上記の3手法を併用して、特に収益還元法の場合はその地域、不動産の属性に応じたキャップレートによって評価されることになります。一方で、この企業がプロパティマネジメントなどで収益を上げている場合には、こちらのキャッシュフローはWACCでもって割り引かれることになります。もしこの企業に対して、DCFをそのまま適用しようとすると、保有不動産から発生する賃料を売上げとして認識し、それからキャッシュフローを計算して、WACCで割り引くなんてことになるかと思います。しかし、このWACCとキャップレートは一般には当然違うわけで、すべてをDCFで評価した場合と、NAVをベースに評価した場合とで評価は異なってしまうことになります。
今回のプロジェクトでは、リアルオプションのボラティリティをどのように算出するか、ということも個人的には興味がありましたが、この割引率の話がかなり重要だったと思います。割引率は評価に対して影響が大きいだけに、慎重にならなければいけないのですが、かといってそれほど確固とした根拠もあるわけではないので、非常に悩ましい問題です。だからこそ、ぼくはDCFが嫌いなのですが(だからと言って、AOIGモデルはもっと嫌いですが)。
結局のところ、企業でも不動産でも、何かを評価する際は、基本的な理論をおさえた上で、自分の頭で考えて、自分なりのバリュエーション方法を作ることが大切なんだと思います。
なんかまとまりのない文章になってしまいましたが、今日はこのへんで。
以下、今回のリアルオプションで個人的に読んだり(見たり?)した本を参考までに挙げておきます。以下の本、どれもリアルオプションという文字がタイトルにありますが、中身はかなりバラバラです。
Real Options: Evaluating Corporate Investment Opportunities in a Dynamic World (“Financial Times”)
Sidney Howell Andrew Stark David Newton
マンチェスタービジネススクールの教授陣が執筆した本です。理論の教科書というよりも、各種事例を集めた本といった感じです。不動産、フットボールクラブ、パワープラント、バイオテクノロジー、モーゲージなどのケーススタディが掲載されています。
Real Options in Practice (Wiley Finance)
Marion A. Brach
マンチェスタービジネススクールでMBAを取った方が書いた本です。数式は最小限にして、リアルオプションのマネジメントへの応用を説明しています。
Real Options Analysis: Tools And Techniques for Valuing Strategic Investments And Decisions (Wiley Finance)
Johnathan Mun
600ページ以上もある分厚い本です。前半は基本的な解説、中盤から後半にかけてはどちらかというと、付属しているソフトウェア(トライアル版のみ)の解説といった印象です。ただ、後半に掲載されているケースなどは、実際にリアルオプションを分析する際にどのように分析していくかという手順も解説されており参考になりました。
Real Options: A Practitioner’s Guide
Thomas E. Copeland Vladimir Antikarov
コープランドの本です。今回は以下の日本語版のみ読みましたが、リアルオプションを基本から学ぶ際にはかなりよい本だと思います。
決定版 リアル・オプション―戦略フレキシビリティと経営意思決定
トム コープランド ウラジミール アンティカロフ Tom Copeland
上述の本の日本語版です。
リアル・オプション―投資プロジェクト評価の工学的アプローチ (MBAコーポレート・ファイナンス)
今井 潤一
数学が好きな人にはお勧めです。競争状況下でのリアルオプションに関する解説もあります。