繰り上げ返済を優先する理由というエントリでコメントを頂き、「繰り上げ返済を行う場合、期間短縮型と、返済額軽減型ではどちらが有利か」という質問を頂きました。
ということで、どちらのタイプがよいのかについてちょっと考えてみたいと思います。
期間短縮型と、返済額軽減型そのものについての説明は例えば以下をご覧ください。
住宅情報ナビ 繰り上げ返済をすると、どのくらいトクするの?
結論から言うと、どちらが有利、不利とは一概には言えないのかもしれませんが、返済額軽減型の方がベターなのではないかとぼくは考えています。
ということで、以下、具体的な数字を使って考えてみたいと思います(以下の試算では、端数の数字は合っていない場合があります)。
比較しやすいように、繰り上げ返済の考え方: 財務諸表を使って考えるの時と同じ条件のローンで考えてみたいと思います。
ローン:700万円 30年 元利均等返済
ローン借入金利:3%
(ここでは金利の変動は考慮しないとします)
自己資金:300万円
(今回はローンの部分のみに注目するので、直接は関係ありません)
この場合、毎月の返済額は29,512円となり、年間では354,144円となります。
当初5年間は一切繰り上げ返済を行わず、5年間経過した時点で初めて繰り上げ返済を行うと仮定します。すると、この5年間で支払った総額は
354,144 (円/年) × 5 (年) = 1,770,720 円
となります。これは金利部分と元本部分にわけられ、
金利部分 = 994,182 円
元本部分 = 776,554 円
となります。これをまとめると以下のようになります。
当初5年間
毎月の返済額 29,512円
年間の返済額 354,144円
5年間で返済する総額のうち
金利部分 = 994,182 円
元本部分 = 776,554 円
つまり、5年間経過した時点では、ローン残高は当初の借入額から返済した元本部分を除いた
7,000,000 円 – 776,554 円 = 6,223,446 円
となります。
ここで繰り上げ返済を行います。ここでは、50万円ほど繰り上げ返済行ったと仮定します。すると、ローンの残高は
6,223,446 円 – 500,000 円 = 5,723,446 円
となります。これをどのような形で返済していくのがよいか、というのが期間短縮型と返済額軽減型の話です。
まずは期間短縮型の場合を考えてみます。この場合、毎月の返済額が以前と同じになるように返済期間を設定するわけですが、毎月の返済額がほぼ29,512円となるような返済期間は22年2ヶ月(266ヶ月)となります(ここでは返済期間を端数にしないためには若干返済額が変わります)。
すると、毎月の返済額は29,484円となり、年間では353,808円となります。返済総額のうち、金利部分、元本部分の内訳を加えてまとめると以下のようになります。
残り返済期間 22年2ヶ月
5年後に期間短縮型で繰り上げ返済を行った場合の、6年目から10年目までの5年間の返済額
毎月の返済額 29,484円
年間の返済額 353,808円
5年間(6年目から10年目)で返済する総額のうち
金利部分 = 787,000 円
元本部分 = 981,044 円
次に返済額軽減型の場合を考えてみます。この場合、返済期間は残り25年間ですから、ローン残高を5,723,446 円(50万円繰り上げ返済した後の残高)として、再度計算してみると毎月の返済額が27,141円となり、年間では325,692円となります。同様にまとめると、以下のようになります。
残り返済期間 25年
5年後に返済額軽減型で繰り上げ返済を行った場合の、6年目から10年目までの5年間の返済額
毎月の返済額 27,141円
年間の返済額 325,692円
5年間(6年目から10年目)で返済する総額のうち
金利部分 = 798,887 円
元本部分 = 829,586 円
手元余剰現金 = 140,580円 (= 5 × (353,808円 – 325,692円))
ここで期間短縮型の場合と比べて、返済額軽減型の場合、毎月の返済額が少ない分、5年間で手元に約14万円の現金を残すことができるはずです。
一方、返済額軽減型の場合は、毎月の返済額が少なくなってしまっている分だけ、元本返済は進んでいません。この差は
981,044 円 – 829,586 円 = 151,458 円
となります。この約15万円分はまだ元本が減っていないわけですが、その気になれば手元の14万円を使ってすぐに返済してしまえば、ほぼ相殺することができるはずです(繰り上げ返済手数料は無視します)。
つまり、返済額軽減型の場合であっても、繰り上げ返済を1度行ってからさらに5年後の時点(言いかえると、当初からは10年後の時点)で、手元に残っている現金を返済してしまえば、期間短縮型とかなり近い結果になるはずです。
一方、この14万円はそのまま手元に残しておいて何かの時のために残しておいてもよいわけですから(例えば、より利回りの高い資産への投資、想定以上の維持費用など)、経営(もしくは返済)の自由度という意味では、返済額軽減型の方が高くなるわけです。
15万円と14万円で1万円ほど差がありますので、この差を大きいと考える方もいらっしゃるかもしれません。また、投資用であれば金利は費用として計上できますので、金利相当分が大きい分だけ節税効果を考慮に入れたいと考える方もいらっしゃるかもしれません(住宅ローンでは費用になりません)。そもそも、10年間で金利が一定なんて、あり得ないだろう、という話もあるでしょうから、どちらの方が絶対によいと、現時点において将来を含めた形で言い切ることはそもそも不可能でしょう。また、子育て世代のファミリー層の方であれば、少しでも手元に現金を残しておきたいと考えるかもしれません。
ということで、あまり細かいことは言ってもきりがないですし、その方の置かれている状況によっても最適な選択肢というのは変わってくると思うのですが、ぼくは上で説明したような経営の安全性、自由度ということを重視して、返済額軽減型を選ぶようにしています。
少しでも参考になればと思います。
(ちなみに、当初一定期間金利が固定になっているローンの場合、この一定期間中に繰り上げ返済することはできない(できたとしてもかなり手数料がかかってしまう)ので、上の話は5年固定ローンか、変動で借りた場合とお考えください。)
最後に、金利が6%になった場合の試算結果を数字だけつけておきます。
ローン:700万円 30年 元利均等返済
ローン借入金利:6%
自己資金:300万円
当初5年間
毎月の返済額 41,968円
年間の返済額 503,616円
5年間で返済する総額のうち
金利部分 = 2,031,917 円
元本部分 = 486,195 円
残り返済期間 21年1ヶ月
5年後に期間短縮型で繰り上げ返済を行った場合の、6年目から10年目までの5年間の返済額
毎月の返済額 41,944円
年間の返済額 503,328円
5年間(6年目から10年目)で返済する総額のうち
金利部分 = 1,688,113 円
元本部分 = 828,579 円
残り返済期間 25年
5年後に返済額軽減型で繰り上げ返済を行った場合の、6年目から10年目までの5年間の返済額
毎月の返済額 38,747円
年間の返済額 464,964円
5年間(6年目から10年目)で返済する総額のうち
金利部分 = 1,719,357 円
元本部分 = 605,464 円
手元余剰現金 = 191,820円 (= 5 × (5,033,328円 – 464,964円))
この手元余剰現金を10年後の時点で一括元本返済にまわすと、
605,464円 + 191,820円 = 797,284円
となり、期間短縮型の場合の元本部分 828,579円に近くなります。
それにしても、金利が6%だと、金利負担がかなり大きくなりますね。