最近は、国際的な金融機関に資本が注入され、クレジットイベントなんだか、そうでないんだかよくわからないことになっていますが、ISDAのページによると、前回ちらっと説明した、プロトコル方式によって決済が行われることになっている参照組織は以下の通りです。
- Kaupþing
- Landsbanki
- Glitnir
- Washington Mutual
- Lehman Brothers
- Fannie Mae and Freddie Mac
- Tembec
Conservatorshipやら、Receivershipやら、クレジットデリバティブの世界はホントによくわかりません。エクイティデリバティブだと、基本的に株価であらゆるペイオフが決まるので、比較的シンプルですね(最近は、Market Disruptionでバリアンススワップの計算に算入されない日もあるらしい、と聞いているので、エクデリの方もすこしやっかいみたいですが)。
さて、今回は、回収率について質問を頂いたので、簡単に書いておこうと思います。
その前に、以下が今までに書いたクレデリ関連のエントリ一覧です。一部専門的なところもありますが、目を通して頂くと、現在、世の中を騒がせ、かなり悪者扱いされている(?)、クレジットデフォルトスワップについて、その一端に触れることができるのではないかと思います。
クレジットデフォルトスワップ(CDS)とは?
OTC derivatives は Correlation derivatives
CDSの残高が減少したようです
クレジットデフォルトスワップ(CDS)の決済方法-リーマン・ブラザーズの例
さて、本日の本題、回収率です。CDSの中に専門用語として出てくる回収率の前に、会社が倒産し、清算した場合の債務(債券やローン)の弁済率(回収率)について簡単に説明します。
企業は、簡単に言うと、デット(他人資本)とエクイティ(自己資本)によって資金調達を行い(お金を集め)、そのお金を使ってビジネスを行って、利益を上げています。デットというのは、銀行からお金を借りたり、債券と呼ばれる有価証券を投資家に買ってもらって、資金調達を行っている部分です。一方、エクイティは、株式と呼ばれる有価証券を投資家に買ってもらって資金調達を行っています。
ビジネスがうまくいけばいいのですが、うまくいかなくなり、会社が倒産してしまうこともあるでしょう。そのような場合、会社が持っている資産(現預金、有価証券、商品などの在庫、不動産など)を現金化して、今までお金を融通してもらっていた人たちに返済します。その際、デットという形で資金提供していた人たちに優先的に返済され、それでも余ったら、エクイティの形で資金提供していた人たちに返済が行われます。
例えば、ある企業が倒産し、清算して資産が十分になかった場合(債務超過)に、100万円の債券を購入していた人には、30万円しか返済されないかもしれません。この場合、元本100万円に対して実際に返済された割合、つまり
30万円 / 100万円 = 30%
のことを弁済率(回収率)と呼んでいます。
さて、話がそれてしまったように思われるかもしれませんが、ここで話をCDSに移します。前回、CDSの契約とは次のようなものであると書きました。
2006年9月20日から2011年9月20日の間(5年間)に、リーマンブラザーズホールディングスが倒産したら、SさんはBさんに10億円(想定元本)×(1-回収率)を払うこととする。ただし、BさんはSさんに毎年保険料として、400万円の支払いをするものとする。また、倒産が起きた場合には、その後の保険料の支払いは発生しないものとする。
この時、Bさんの立場はどのような人が考えられるでしょうか。純粋ゼロの状態から、新規にトレーディング目的でリーマンのCDSを購入したい、という人もいると思いますが、一つ考えられるのは、すでにリーマンに10億円を融資している銀行や、リーマンが発行した債券を10億円保有している人(債権者)です。
10億円の債権を持っている人たち(CDSの買い手なので、Bさん、と呼んでおきます)は、もしリーマンが倒産してしまうと、その10億円の債権が回収不能になってしまうかもしれません。そこで、この10億円を守るために、年間400万円(この数字はあくまで例です)という保険料を払ってもいいと考えるかもしれません。
前回、CDSには、現物決済と現金決済があると書きましたが、ここでは現物決済を考えます。Bさんが現物決済のCDSを購入して、その後、クレジットイベントが発生した場合、どうなるでしょうか。
この場合、現物決済ですので、
Sさんは、Bさんに10億円を支払い、
Bさんは、Sさんに元本が10億円の債権(債券もしくはローン)を引き渡す
ということが行われます(Sさんは、CDSの売り手です)。
そして、クレジットイベントが発生しているのですから、この10億円の債権は清算されることになります(以前も書いたように、クレジットイベント=バンクラプシーというわけではないので、このあたりは微妙ですが、、、)。
すると、このエントリの最初に説明したように、10億円の元本は返済されることは稀で、100%よりかなり低い回収率相当分が返済されることになります。つまり、「10億円×回収率」というわけです。
あらためて、上の現物決済を数式っぽく書いてみると、
10億円の現金 - (クレジットイベントが発生した企業に対する)元本が10億円の債権
=10億円 - 10億円×回収率
=10億円×(1-回収率)
となり、最初に書いたCDS契約の説明の中に出てきた数式になりました。このような背景があって、数式の中に回収率という言葉が出てきます。
ここで少し話が変わりますが、一般的に、倒産することが明らかになった後、債券の市場価格は急落すると思われます。で、どのあたりに落ち着くかというと、市場が予想する回収率に落ち着くと思われます。つまり、市場参加者がその倒産した企業のバランスシートを分析して、この債券に対してどの程度現金が返ってくるかを予想しながら、市場価格の方が安いと思えば買うでしょうし、高いと思えば売るでしょう。そのような形で市場では取引が行われます。
一方で、実際にその企業の清算が完全に完了して、実際に回収率相当の現金が返済されるまでにはかなり時間がかかるのが一般的だと思われます。そこで、CDSの現物決済用には、オークションという形で回収率を(ある意味勝手に)決定し、すべてのCDS契約の決済を行ってしまっていることになります。
最近行われたオークションで決定された回収率は以下の通りです(Wikipediaより引用)。
2008-10-02 Tembec Inc 83
2008-10-06 Fannie Mae – Senior 91.51
2008-10-06 Fannie Mae – Subordinated 99.9
2008-10-06 Freddie Mac – Senior 94
2008-10-06 Freddie Mac – Subordinated 98
2008-10-10 Lehman Brothers 8.625
http://en.wikipedia.org/wiki/Credit_default_swap
これで、回収率の意味が少しでもお分かり頂ければよいのですが。
クレデリについての本を読むならこちらがおすすめです。
クレジット・デリバティブのすべて 第2版
河合 祐子
CDSの回収率でした。
思ったより長くなってしまいました。
こんばんは。
エントリやコメントの質が高いので、質問するのに逡巡しましたが、聞くならばその道の方にと考えてお尋ねした次第です。
大変丁寧な解説で理解が容易でした。感謝いたします。
「現物決済」の理解が足りなかったようです。
素人なんですが、今後も勉強の糧とさせていただきます。
久さん
また何かありましたら聞いて頂ければと思います。
わかる範囲でお答え致します。