標準的な経済学の前提である、「人は合理的な計算や推論によって行動を決定する」というのは、間違っている、というのがこの本の主旨です。間違っているというのは少し言いすぎかもしれませんが、あまり現実的な前提ではないだろう、ということです。いかにして商品を売るかというマーケティングなどにはとても参考になる考え方だと思います。
行動経済学 経済は「感情」で動いている
友野 典男
かなり具体例が多く取り上げられているのですが、例えば、次のようなものがありました。
問題1と問題1’のそれぞれについて、どちらの選択肢を選ぶか考えてみてください。
質問1
アメリカ政府が、600人は死ぬと予想されているきわめて珍しいアジアの病気を撲滅しようとしている。そのために2つのプログラムが考えられた。どちらがより望ましいか。見積もりは科学的に正確であるとする。次にあげた選択肢からどちらを選ぶか。
A:200人助かる
B:確率1/3で600人助かり、2/3で誰も助からない。
質問1′
(問題設定は同じ)
C:400人死ぬ
D:確率1/3で誰も死なず、2/3で600人死ぬ。
選択肢は、AとC、BとDで全く同じことを言っている(言い回しが違うだけ)ので、問題1でAを選んだ人は問題1’でCを、問題1でBを選んだ人は問題1’でDを選ぶのがコンシステントな回答になるわけですが、実際には問題1でAを選んだ人が72%、Bを選んだ人が28%、問題1’ではCを選んだ人が22%、Dを選んだ人が78%だったそうです。
これは問題が表現される方法によって、異なる判断選択が導かれる「フレーミング効果」の例だそうです。問題1では肯定的な表現が、問題1’では否定的な表現が使われています。
ちなみに、この例はビジネススクールの授業でも出てきたので、おそらく有名な例なのでしょう。
さらにもう一つだけ。
問題10
当日券が50ドルのコンサート会場でチケットを買おうとしたところ、50ドル札を失くしていたことに気づいた。50ドル出して当日券を買うか?
問題10′
前売り券を50ドルで買ってコンサートに行ったところ、このチケットを失くしたことに気づいた。当日券も50ドルで買えるが買うか?
この例では、「はい」と回答したのは、質問10では88%、質問10’では46%だったそうです。この違いはメンタルアカウンティングという考え方によって説明できるそうです。
このように小さなことに思えるかもしれませんが、ちょっとした表現の違いや心理的な認識の違いが人間の行動に大きく影響を与えるようです。なかなか興味深い本でした。
ただ、あまりやさしく書かれていると言う感じの本ではないので、さらっと読むのはしんどいかもしれません。