製薬業界って複雑ですね

IBプロジェクトで製薬業界のクライアントのプロジェクトをやっているのですが、この業界かなり複雑ですね。あまりに複雑なので、簡単にまとめておきます(以下の説明で誤解しているようでしたら、コメント頂けると助かります)。
製薬業界と言っても、ここでは新薬開発(創薬)を行っている企業を指しています。つまり、国内企業で言えば、武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共などのことです。こういった企業は、新しい薬を開発するために研究開発(R&D)を行っていて、新薬が商品として市場に出るまでにその期間は9年から17年程度だそうです。
(3) 長い年月と膨大な費用をかけて行われる研究開発
↑のリンクにR&Dのプロセスが書いてありますが、

  1. 基礎研究
  2. 非(前)臨床試験
  3. 臨床試験(治験)
  4. 承認審査
  5. 市販後調査

という長いプロセスを経て、新薬が開発されることになります。そして、1つの新薬を開発するために必要な研究開発費は年々増加傾向にあり、約500億円(資料によってはさらに高額)と言われているようです。製薬会社は、各段階にある新薬候補をパイプラインとして管理していますが、最終的に新薬として商品になる確率は非常に低く、10000万分の1程度であり、この研究開発の生産性は年々低下傾向にあるようです。
一方、上記のプロセスの初期段階で製薬会社は特許申請を行うのですが、特許の有効期間は20年間なので、申請してから商品として市場に出回るまでに15年かかってしまうと、せっかく市場に出ても特許として保護されるのはたったの5年間ということになってしまいます。15年もかけて新薬を開発しても、特許で保護されるのがたったの5年だと製薬会社もやってられない、、、ということになるため、研究開発に時間がかかった場合には特許期間が最大5年間延長できる制度があります。
特許が切れてしまった後は、ジェネリックと呼ばれる後発医薬品が一気に出回ってくるので、新薬のプロダクトライフサイクルとしては衰退期に向かい、売上げは減少する傾向になります。つまり、新薬として承認、商品ローンチ後から、特許の期限切れまでの間が製薬会社にとってもっとも利益を上げることができる期間であり、いかに研究開発期間を短縮し、この利益率の高い期間を長くすることができるか、ということが一つのポイントになるようです。
一方で、利益を上げるためには薬価の設定と保険診療の対象になるかどうか(Pricing and reimbursement)が重要になってきます。製薬会社としては巨大な研究開発費を回収してさらに利益を生むことができなければ、事業として成り立ちません。なので、新薬の価格がいくらになるかというのは非常に重要になってきます。ところが、製薬業界は規制の強い業界であり、価格を自分達で自由に設定することはできません。基本的には国(日本で言えば、厚生労働省)が価格を決定します。どのくらい一方的に決められてしまうのか、そのあたりはいまいちわかりませんが、市場に出回っている類似の商品を考慮入れて決められているようです。一度決まった後は、2年ごとに改定(引き下げ)されます。
そして、もう一つ大事なポイントが保険診療の対象になるかどうか、という点です。支払い者(Payers)は、薬を実際に使う患者さんだけではなく、国、保険会社、事業主など多岐にわたります。保険診療になるかどうか(ならない場合は患者さんが全額自己負担)で、その薬の普及率が大きく変わってきます(売上げ=価格×数量ですから)。なので、これは製薬会社にとって重要なポイントになります。
さらに、他の業界と大きく異なる点は、商品購入に対する意志決定者です。例えば、スーパーマーケットに行って、牛乳を買うときに、複数のブランドの牛乳があった場合、その商品を購入する人(この場合、ほぼ等しく消費する人)がブランドを選びます。旅行するときに航空券を買う場合であっても、支払い者が基本的にはどの航空会社のものを選ぶかを決めることになります。ところが、薬(ここでは一般用医薬品ではなく、医療用医薬品を指しています)の場合、その薬の選択は、上記で説明した支払い者(国、保険会社、事業主、患者さんなど)というよりも、医師の影響力(支払い者ではありません)が大きいわけです。もちろん、患者さんには十分説明した上で最終的な承諾を得るとは思いますが、一般的には患者さんは薬についての高度な知識は持ち合わせていないでしょうから、医師の選択の影響はかなり大きいでしょう(風邪とかインフルエンザ程度の場合は、そもそも選択の余地すらないかもしれません)。
このように、製薬業界ではステークホルダーが非常に複雑にからみ合っているようです。ここまで理解するのもけっこう大変でした。これはあくまでベースで、実際にやっているIBプロジェクトでは、もっと別の視点が必要で、プロジェクトのチームメンバーも大混乱です(例えば、Co-marketing と、Co-promotion って一体何が違うんだ?とか)。日々、あーだ、こーだ、言いながらすこーしずつ、前進しているような気がします。
ちなみに、上で説明したような製薬会社のビジネスモデルは、ブロックバスター依存型ビジネスモデルと呼ばれるようです。多数の薬の候補の中から、抜群によいもの(ブロックバスター)を一つ新薬としてローンチできると、それが高い利益につながるというビジネスモデルです。景気の影響を受けにくい業界ではあるものの、かなりハイリスク・ハイリターン型のビジネスと言えるかもしれません。
以下、参考までにいくつかのリンクを載せておきます。
製薬ナビ
医薬品業界(製薬業界)とは?
治験ナビ
日本の医療費と医療を正しく理解するために

5 件のコメント

  1. はなこ 返信

    主人がイギリスの某有名製薬会社に勤めております。
    そう、そう新薬がラウンチできる可能性って本当に低いですよね。ラウンチできないで消えていく新薬の多いこと。驚きです。去年1年でも主人の受け持ちのチームの中で、2つの商品が消えていました。そうなると、チーム側も大変で、長い年月かけて研究してきたものが無くなり、今度は会社の中で自分の居場所探しからはじまります。
    新薬の値段が度をすぎるほど高くても、製薬業界の内情を知っている人間にしてみれば妥当なのかもしれません。
    けれども、そうでない消費者側にしてみれば、悪魔のビジネスと呼ばれることにもなるんでしょうね。

  2. yokoken 返信

    はなこさん
    コメントありがとうございます。
    最終的に商品化までたどり着く確率は非常に低いようですね。長い年月かけて開発されてきて、それが商品化にまで至らなかった場合のお気持ちはお察しいたします。
    価格の設定は非常に難しい問題なんでしょうね。ステークホルダーが複雑にからみ合っていますし。

  3. おきもと 返信

    フェーズフォワードジャパンも入ってきたばかりの営業幹部候補を採用した上司がいきなり
    “体臭が強い”って難癖つけて一発解雇にしたよ、あれは理不尽過ぎて見てて驚いた

  4. yokoken 返信

    > おきもとさん
    コメント頂きましてありがとうございます。また、返信が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
    そんな理不尽なこともあるんですか。感覚的にはあり得ないことが、起きてしまうこともあるんですね。

  5. ひろ 返信

    フェーズフォワードのきょうこ姫すごいからね~
    お客にも態度大きいし、外資ってそんなに偉いの?あの人空気読めないじゃん
    あまり関わらない方が良いよ、フェーズフォワードは

ひろ へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です