Motivation for cross listing

最近、まわりの人がやたらグループワークで忙しそうにしているのですが、それに比べて比較的時間に余裕があるのはなぜだろう、と考えてみたところ、ぼくはAdvanced Corporate Financeを取っていることが一因なのではないかという結論になりました。というのも、これは100%試験で評価が決まるため、評価と関係ないグループプレゼンが昨日あったことを除けば、試験勉強をコツコツするのみだからです。
この試験がちょうど来週の火曜日にあるわけですが、それに向けてそろそろ準備を始めなければなりません。ブログを書くことによって、頭の中が整理されるということもあるので、いくつかのテーマに分けてブログに書くことによって試験対策をしてみたいと思います。
ちなみに、この Advanced Corporate Finance ですが、ディプロマステージでやったコーポレートファイナンスをもう少し細かくやる(計算とか)感じの授業かと思いつつ取ってみたのですが、フタを開けてみると、コーポレートファイナンスに関連するより広範囲な内容をカバーする授業でした。具体的には、Corporate governance、Private Equity and Going public/private、Initial Public Offering and cross-listing などです。
少し長いので、興味のある方のみ、どうぞ。
今回は昨日のグループプレゼンの後、けっこう激しいディスカッションを行った Motivation for cross listing についてです。
まず、cross listing の定義ですが、日本語で何というのかいまいち分からないのですが(複数上場?共通上場?)、要するに本国の証券取引所に加えて、海外の証券取引所にも同時に上場させることです。例えば、トヨタ自動車が東京証券取引所に加えて、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場する、など。
このcross listingをする際の場所を選ぶ基準としては、以下のような点が考慮されるようです。

  1. Economic proximity

  2. 本国と、経済的にどれほど親密であるか。つまり、例えばトヨタ自動車の例で言えば、北米、特にアメリカでの売上げがかなり大きいわけで、アメリカの証券取引所に上場させることによって、アメリカでの知名度を高め、より有利にビジネスを展開できる可能性が高まるものと思われます。

  3. Cultural proximity

  4. これは、本国で話されている言語とcross listing先の国で話されている言語が共通であるか、植民地として同じところに支配されていた歴史を持つか、などといった要素です。前者で日本企業の場合は、日本語が主要言語として話されている外国はどこにもないのであてはまりません。しかし、スペインの企業がメキシコに上場したり、その逆、なんてケースがこれにあてはまるものと思われます。さらに、後者の例で言うと、コモンウェルスなどを考えればわかりやすいと思います。

  5. Industrial proximity

  6. 今ハンドアウトを読み返してみて、いまいちしっくり来ないのですが、おそらくcross listingさせる国において、その企業の属する産業がどれほどの重要さを持っているか、といった程度だと思います。例えば、この観点から言えば、トヨタ自動車で言えば、自動車事業(輸送機械)がコアとなる産業ですが、例えばウィーン証券取引所(オーストリア)に積極的に上場させる理由はあまりない、ということになるのでしょう。

  7. Geographic proximity

  8. これは地理的な要因です。アジアの企業であれば、アジアで上場させたい、など。

そして、cross listing をさせるモチベーション(これが今日の本題)としては、従来は以下のような説明があったようです。

  1. Market segmentation

  2. 例えば、トヨタ自動車が日本の東京証券取引所のみに上場していた場合、海外の投資家は取引しづらくなってしまいます。最近はインターネットの発達によって、海外の株式も取引しやすい環境が整備されつつありますが、それでもやはり海外の株式は本国の株式に比べて取引しづらいことには変わりありません。また、東証の上場規定は知りませんが、東証のみに上場させるのであればトヨタ自動車が英語のドキュメントを作成する必要はないかもしれません。すると、海外の投資家にとっては情報が手に入らなくなるわけで、自然と国内の投資家のみが投資できるという環境が構築されてしまいます。このようなインフラ、情報伝達の容易性に加えて、税制や各種規制など様々な要因によって市場がセグメント化してしまう可能性が高くなるわけです。海外の取引所に上場させることによってセグメント化してしまうことを防ぎ、企業としては自社証券の市場をインテグレートし、投資家の多様化を図ることができるわけです。これに関連して、投資家層を拡大させることによって、企業のリスクが幅広い投資家によって共有されることで、企業の資本コストが低下するというメリットも挙げられています。

  3. Liquidity

  4. まず、Liquidity(流動性)の定義ですが、ここでは「現存の市場価格を下げることなく、どの程度の証券を新たに発行できるか」といったものととらえておきます。国内のみに上場している場合、国内の資本に対する需要と供給でこの流動性は決まってしまいますが、海外に上場させることによって、この流動性を向上させることができるというわけです。

  5. Signalling and investor recognition

  6. これはディスクロージャーに関する規制の程度が各市場によって異なることに起因するものです。例えば(あくまで例えなので、実際にどうなのかは知りません)、日本よりも、米国の方がディスクロージャーに関する規制が厳しいと仮定します。すると、日本企業(例えば、トヨタ自動車)が米国に上場することによって、より詳細な情報が市場に提供され、そのことによって投資家の企業に対するモニタリング(監視)能力が高まります。すると、投資家はより詳細な情報を手にできるわけですから、より適切で、より高いバリュエーションがなされることになります。株式に対するリスクプレミアムが低下することによって、企業としては資本コストを下げることができ、より有利にビジネスを展開していくことが可能になるわけです。

以上が従来からcross listingのモチベーションだと考えられてきたもののようですが、これらでは説明できない現象もあり、最近では新しい説明があるようです。それは、Legal bonding と呼ばれるものです。
これは法的規制の厳しい証券取引所に上場することによって様々な要求を満たさなければならなくなるため、上場していることそのものが様々な要求を満たしている証拠となり、結果的にエクイティに対するプレミアムを低下させることができるのではないか、という説です。具体的には、社外取締役の起用、少数株主の保護、厳格なディスクロージャー規制などです。例えば、コーポレートガバナンスに関して言えば、経営陣が自分たちの個人的な利益を重視する経営を許しかねない規制の下で運営されている企業と比べれば、外部からの目が厳しく、そのようなことが仕組みとして難しくなっている証券取引所に上場されている企業の方が、投資家としては安心して投資できるのではないか、ということです。
例えば、以下のようなサーベイがマッキンゼーによって行われたようです。

“If so, how much more (what premium) would you be willing to pay for a share in a `good governance` company in the following countries?”

これに対する結果ですが、モロッコが最も高く42%程度、日本は21%程度で真ん中くらい、米国が14%程度、カナダが最も低くて12%程度だった、とのことです。
このように国(または証券取引所)によって、規制の程度が異なるため、企業に対する信頼性を正確に測りにくい市場に対しては、どうしてもプレミアムが上昇してしまい、結果として資本コストが上昇してしまうというわけです。
以上、cross listingへのモチベーションに関するアカデミックな最近の研究でした(日本語であっても、書くことによってけっこう頭の中が整理できました。わかりづらくて読まれている方には伝わっていないかもしれませんが、、、)。
ちなみに、同じ国内で複数の取引所に上場するモチベーションは何なのか?と聞いてみたところ、それは日本とかドイツだけで見られるかなり特殊なケースなので、特にそれについて研究している文献は見たことがない、とのことでした。現代において、日本国内で複数の取引所に上場するモチベーションって何かあるのでしょうか(「証券取引所再編で12月末にも方向性=日証協会長」という話もあるようですが)。ちなみに、トヨタ自動車は以下の取引所に上場しているようです。

国内:東京、大阪、名古屋、福岡、札幌
海外:ニューヨーク、ロンドン
http://www.toyota.co.jp/jp/ir/faq/share.html

これを書いていて(再?)発見したのですが、以下の外務省のページは便利ですね。各国の基礎データ(今回の例で言えば、言語や主要産業など)が充実しています。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/index.html

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